QDT Vol.47/2022 August page 1039図1a、b 咬合が不安定になり、不定愁訴を訴えていた症例。a:術前の前方面観。b:術前の下顎咬合面観。ab43第7回 アンテリアガイダンスの臨床的再現法:過去と現在初診時【治療終了年月】1986年12月。【症例の概要】患者は38歳(初診時)、女性。咬めない(咀嚼機能障害)ことと顎顔面の筋肉痛を主訴に来院した。よく噛めるように歯を治して欲しいとの申し入れがあった。 現在の咬頭嵌合位では臼歯、筋肉、顎関節に痛みがあり、顎位も不安定であったため、現在の噛み合わせにとらわれない、中心位での咬合診断を行った。そして、治療の目的を咬合の安定による主訴の解消とした(図1、2)。 プロビジョナルレストレーション(以下、PVR)を仮の中心位で製作し、装着中に歯内治療、歯周治療、支台築造を実施しつつ、臼歯の中心位咬合、前歯のアンテリアカップリング、臼歯のディスクルージョンの確立を目指した(図3)。疼痛の解消と快適な咀嚼の回復をめどに、最終補綴装置の製作に着手した。とくに、アンテリアガイダンスの付与に関しては、口腔内で調整されたレジン製PVRの上顎両側犬歯間を切断分離し、作業模型へできるだけ正確に復位して、PVRのアンテリアガイダンスを咬合器上のインサイザルテーブルにコピーし、最終補綴装置の前歯部舌面形態の製作に供した(図4)。 ここまでの治療に約1年を要した。以後、2ヵ月の仮着を経て、本着した(図5、6)。そして、3〜4ヵ月ごとのリコール・メインテナンスへ移行した。 術後10年の間に、途中、骨折や糖尿病による入院のため、来院できない時期があったが、ハイジーンと咬合の安定は良好であった(図7)。 術後10年を過ぎた時点で、患者の体調と希望を配慮し、リコール期間を6ヵ月ごとに変更。その間、再度の骨折による歩行困難と再入院のため、メインテナンス期間にばらつきが生じはじめた。ハイジーンは良好であった。前歯部にブラキシズムによる咬合性外傷を認めた(図8)。 術後15年の頃、上顎前歯部の正中離開と切縁の破折を観察(図9)。原因は定かではなかったが、本症例ではブラキシズムの影響が原因として最有力と考えた。ブラキシズム症例では、長期的には、正中は連結しておくのが得策との教訓を得た。
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